死にたがりティーンエイジを忘れない


点滴の管が刺さっていないほうの腕で、わたしは自分の目元を覆った。

竜也はしばらく黙っていて、それから、わたしの手のひらに硬く四角いものを触れさせた。

ケータイだ。


「ここ、響告大の附属病院なんで、医学部の先輩たちが検査の助手とかしてて、蒼さんの実家に連絡入れたほうがいいってアドバイスもくれて、おれ、勝手に蒼さんのケータイいじりました。すいません」

「……うん」

「ご両親、今度の休みに様子見に来るっておっしゃってました。後でまた連絡してみてください」

「わかった」


竜也はちょっと言いにくそうに続けた。


「彼氏さんにも連絡したほうがいいかなって思ったんだけど、迷ってるうちに、連絡しそびれて」

「あの人には何も言いたくない」

「何で?」

「さあ……何でだろう? 何で、こんなにねじれてるんだろう?」

「ねじれてる?」

「あの人といても、しゃべらない。笑わない。あの人の部屋で家事とセックスだけして、わたしはそのためだけの存在みたいで、こんな自分がけがれてるように感じられて。何かもう、イヤだ」


初めて声に出して言った。

わたしを好きだと言った竜也の前で、わたしはひどい言葉を吐いている。


「けがれてないですよ。傷付いてるだけでしょ」

「違う。わたし、めちゃくちゃなんだよ。リスカやピアスだけじゃなくて、体がおかしくなった直接の原因はたぶん、睡眠導入剤とか大量に飲み続けてきたせいだし、摂食障害で、まともな食事が取れてなくて……」


< 321 / 340 >

この作品をシェア

pagetop