死にたがりティーンエイジを忘れない
校舎の陰に隠れながら、給食の匂いの中を校門へと走るわたしの背中に、
柔らかい響きの男の声がふわりと触れた。
「皆さん、こんにちは。お昼の放送の時間です。本日のお相手は、上田です」
ああ、この放送の人がさっきの男子か。
琴野中には、人の話なんか聞かないという空気が蔓延している。
でも、そのくせお昼の放送のときにDJが「上田」と名乗ると、派手な女子のグループが「いい声だよね」とほめる。
ラジオ好きな誰かが「上田はレベルが高い」と言ったから、ほめる空気になったらしい。
確かに、いい声だ。
優等生な少年役の声優みたいな、整った声。
そんなことがあったから、わたしは上田という人物を覚えた。
上田は、放送ではノリのいい言葉づかいもする一方、教室でのしゃべり方は静かだ。
背は高いほうだ。
女子に囲まれて「上田ってかわいいよね」と言われて困っているのを、たびたび見る。
智絵が不意に、か細い声でつぶやいた。
「あたし、上田くんのこと、好きなんだ……ずっと前から」
どう返事をすればいいのか、わからなかった。
「そうなんだ」
「だ、誰にも言わないでね。あたしなんかが上田くんのほう見てたら、それだけで上田くんに迷惑かかっちゃうから」
大げさじゃない?
おびえすぎじゃない?
わたしはそう思ったけれど、口には出さなかった。
誰かに恋愛感情を寄せられるだけで迷惑がかかるものなんだろうか。
ストーカーされるのは別として、普通、迷惑というほどのこともないんじゃない?
上田には放送のファンだっているんだし、好かれることには慣れているはず。