死にたがりティーンエイジを忘れない
お気に入りの漫画を英訳した。
見開きの左のページに漫画のコピーを貼って、右のページに英訳を書く。
それがわたしの自由研究だった。
「見ないで。全然、たいしたことないから」
中学二年生の英語だ。
間違っている点や表現力不足な点がたくさんあることは自分でもわかっていた。
でも、すごいすごいと騒がれて、こんな発想はほかの誰もできないとほめちぎられて、
秀才だとか天才だとか言われた。
やめてほしい。
そんなんじゃない。
騒がないで。
智絵は騒ぎの向こう側で、独りぼっちでたたずんでいる。
何でわたしは「こっち側」なの?
重なり合う声の一つひとつが聞き分けられなくて、わたしはスッと現実感が遠ざかった。
頬が熱くなって、胃が冷えていく。
腕がカタカタ震えるのに、足は床に貼り付いて動かない。
ダメだ、耐えられない。
教室という世界の中に、わたしはいくつものシャッターを下ろす。
わたしと、わたしを取り巻く派手な人たちの間に。
この大騒ぎと、智絵との間に。
そうしないと、わたしはわたしを保てない。
微笑んではいけない。
誰の前でも「仲間だ」と意思表示してはいけない。
でも、智絵のもとへも行けない。
わたしは「こっち側」から出られない。
その日の夜、わたしは初めて自分から智絵に電話をかけた。
明日からも一緒に学校に行こう、と誘った。
智絵は小さな声で「うん」とだけ言った。