シンデレラは騙されない


「でも、今の旦那様は、私の生い立ちもお手伝いの仕事も、何もかも受け入れてくれて、それで心から私を愛してくれている。
私ももちろん愛してる…
居心地が良すぎて、離れたくないくらい」

……ふ~~ん。
これは羨まし過ぎて泣きそうになる私の心の声。

私もこんな風に幸せそうな顔で愛する人の話をしてみたい。
今は自分に課せたお金を貯めるという目標が大き過ぎて女という部分を忘れているけれど、本当はこんな風に愛して愛される誰かとめぐり会う事をいつも夢見ている。

「いつか、私にもそんな出会いがあればいいけど」

ポツリと呟いた私のこの言葉は、どう聞いても重すぎた。

「麻里さんは、頭もいいし、美人だし、絶対に素敵な人にめぐり逢いますよ。
誰よりも一番に麻里さんを愛してくれる人に」

私は山本さんを見て、力なく微笑んだ。
でも、すぐに、自分に気合いを入れ直す。

私は弟とお母さんを幸せにしたい。
そのためにここの家庭教師を志願したのに、愛し愛されたいだなんて、そんなものは今の私に必要ないもの。

私は部屋から出て行く山本さんを見送ると、窓から見える素敵な庭を心を真っ新にして眺めた。

愛して愛される事は、ひとまず心のひきだしにしまって…



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