シンデレラは騙されない


大きなスーツケースの中身を備え付けの収納棚に入れ替えていると、外でバタバタと音がする。

私が窓から外を覗くとその音はピタリと止んだ。
私は小さく息を吐き、また片付けに取り掛かる。

まだこの部屋に慣れていない自分がいた。
実家の団地はこの広さとほとんど変わらず、でも、その狭い空間に三人で寄り添い暮らしている。

そんな生活に慣れている私は、この広いお洒落な部屋に何だか寂しさを感じていた。

……ピンポン、ピンポン。

入口のドアのチャイムが鳴った。
私は慌ててインターホン越しの画面を覗くと、そこには可愛らしい星矢君の顔が映って見える。

「星矢君? どうしたの?」

そう言いながらドアを開けると、星矢君が小さな花束を持って立っていた。

「麻里先生、これをどうぞ。
そして、お部屋に入っていいですか?」

私はその小さな花束に泣きそうになった。
庭に咲いている花達を摘んで作ったその花束は、星矢君の真心がこめられている。

その幼い素直な心は、また私のハートを打ち抜いた。



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