シンデレラは騙されない


でも、あの頃の私に戻りたいのも真実だった。

お父さんの仕事の関係で、私が中学生の時から、私達家族はアメリカで暮らしていた。
外資系企業のエリートだったお父さんは、私達に惜しみない愛情と裕福な生活を与えてくれた。

私の高校入学と同時に、家族は日本へ戻る事になった。
私は英語力上達のために、寄宿舎のある学校に入った。
私以外の家族の生活は、日本に帰った途端、急変した。
お父さんの浮気は本気となり、家に帰らなくなっていた。

私は何も知らずに、アメリカでの三年間を有意義に楽しく過ごした。

お母さんは私の卒業まで我慢してくれて、私が日本に帰国したと同時に、あの家を飛び出した。
小学生だった弟の手を握り、涙を浮かべながら。

アメリカでの私の高校生活は、大事な大事な宝物…
でも、そう思う自分を許せないと思うもう一人の自分がいる。

母達の犠牲の上で成り立っていた私の高校生活は、夢として心の中にしまった。
だから、もう夢は見ないし、見ちゃいけない。

私はお母さんの幸せと、弟の夢の実現のためだけに働く黒子になると決めたから。






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