シンデレラは騙されない
結局、星矢君が起きている間、凛様から折り返しの電話はなかった。
会長と一緒にお風呂に入った星矢君は、パジャマを着て寝支度を始める。
「先生、電話は来なかったけど、今日の夜には帰ってくるよね?」
私はさっき適当な言葉で星矢君を慰めた自分を呪った。
会長が言ったように、凛様は風のような人間なのかもしれない。
でも、さっき帰ってくると言ってしまった手前、私は頷くしかなかった。
私は星矢君におやすみを言うと、星矢君が大切にしまった凛様の電話番号が書かれた紙をそっと探し出す。
自分のスマホにその番号を登録して、星矢君の部屋を後にした。
……電話に出る事ができません。
用事のある方はメッセージをどうぞ。
何度電話しても、凛様の携帯からはその自動音声が流れるだけ。
4回目の留守番電話の時、私は、無意識に口が動いてしまった。
「麻里です……」
次に言葉を出す勇気が出ない。
留守電が切れそうになった時、私は慌ててこんな事を言ってしまった。
「今日、必ず帰ってきて…」
まるで喧嘩別れした恋人達のよう…
その電話を訂正する余裕もなく、一人心臓をドキドキさせながら毛布にくるまって眠りについた。