私は強くない
「……あ、ごめんなさい」

圭輔さんが、キスしようとしたその時、蒼井にされそうになった事が脳裏を掠めた私は、無意識に圭輔さん突き飛ばしていた。

「…っ、やっぱり、されたんだな?」

「ちがっ…」

違うと、首を振る私に圭輔さんは優しくその体を抱きしめてくれた。

「……くそっ、俺のせいだ。怖い思いさせて…ごめん」

「……違…っ、さ、されそうに、なったけど…、橋本君が助けて…くれたの」

ごめんなさい、本当にごめんなさい…

言葉にならず、抱かれた圭輔さんの腕の中で言っていた。

「嫌な記憶…上書きしていいか?怖いか?」

ううん、と私は首を振った。
そして、圭輔さんを見上げた。

「キスして…」

いつもならこんな事を自分の口から、いう事なんてないのに、私は圭輔さんにキスしてほしいと言った。

戸惑いながらも圭輔さんは、ゆっくり私を見つめながら、唇を重ねた。
いつものような、熱に溺れるようなキスではなく優しく、それでもお互いを求めるように…

「慶都、慶都…」

「…圭輔さん、もっと強く抱いて…」

抱いて欲しかった。
圭輔さんに、自分のモノだと強く印をつけて欲しかった。
私の中にこんな欲情の、強さがあるなんて思ってもみなかった。

それから、何度も私は圭輔さんの熱い想いを身体で受け止めた。


圭輔さんと何度も求めあった夜、目が覚めた私は、トイレに立った際に洗面台に映った自分を見て、昨晩の激しさを思い出した。

身体中に圭輔さんが、つけた印が…

「……これ、隠せるかな…」

隠せるかな、と思ったけれど、恥ずかしいとか、そんな感情は湧いてこなかった。
ただ、圭輔さんの事が愛おしかった。

私は、圭輔さんと結婚する。
名取慶都になる…

「…何やってんの?」

眠い目をこすりながら、圭輔さんが後ろから抱きしめてきた。

「….ん?トイレに行ってただけ…」

後ろを振り向きながら、その圭輔さんに私はキスをした。
圭輔さんは驚いたみたいだったけれど、すぐそのキスを返してくれた。

「…慶都、ぞはにいないと心配するじゃないか」

「圭輔さんっ…」

キスが激しさを帯びてきていた。

「…慶都、まだ、足りないよ…」

「……圭輔さんっ」

私を抱きかかえて、寝室に連れて行ってくれた。
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