私は強くない
スタートライン
拓真が帰った後、一部始終を見ていた皆に、頭を下げた。

「今日はすみませんでした。せっかく仕事終わりで、楽しく食事でも、と思ってたのに、私的な事で…」

少しの沈黙の後、気にしなくていいと皆が口々に言ってくれた。
言ってもらった事で、少し気持ちが楽になった。それは香里も同じはず。

「倉橋君、悪かった。姪のしたこ…」

「柏木部長、それはやめて下さい。香里さんも被害者です。最初こそ、恨みましたけど、拓真のやった事を聞いて、香里さんは私よりも傷ついてます。今日の事だって、みんなの前で香里さんの事を言うつもりはなかったんですから…」

「倉橋君…」

これは、私の本心。
確かに最初は恨んだ。憎んだ。でも、私以上に傷ついているのは、香里のはず。心も身体も…
拓真が負った罪は大きい…


「叔父さん、私が悪いの。ごめんなさい…」

それでも、香里は自分責めた。

「香里さん、あなたは悪くないわ。好きになったのが拓真だったから、悪かっただけ」

そう。
誰も悪くない。
好きになったのが、間違いだった。
それだけ。


「倉橋君、奥菜な事だが、私にも考えがある。個人的な思いは、人事に入れる気はないから、処分に関しては、任せてもらってもいいかな?」

柏木部長、私に気を使ってる。
気なんて使わなくていいのに…

「柏木部長に、お任せします。私が言う事でもないので」

「そうか、分かった。じゃ、今日はここらで、お開きにしようか?」

「はい。分かりました」

柏木部長の一言で、今日の飲み会がお開きになった。


< 94 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop