私は強くない
「大丈夫か?」

「…え?あ、大丈夫、ごめんなさい、心配をかけてしまって」

「そんな事気にするな、今日はもう休んだ方がいい」

「はい…」

先に、柏木部長と香里が帰った後、私達はお疲れ、と帰ってきた。

疲れた。
あんな人の為に、こんなにも苦しんでいたんだと思うだけで、どっと疲れた。
私は圭輔さんと一緒に、圭輔さんの家に帰ってきていた。
今日は帰らなくていいから、一緒にいようと。
部屋に入ると、強く抱きしめてくれた。私を抱く手に力が入る。

「圭輔さん…」

「慶都」

圭輔さんの胸に顔を埋めでいた私が、顔を上げると、圭輔さんが優しく微笑んでくれた。

「よく頑張ったな、えらかったよ」

「…っ…」

頬を涙が伝った。
頑張った、その一言だけで救われた気がした。

これでいい。

私は、前を向いていける。

「圭輔さん、私は、あなたがいてくれたから、言えたの。ありがとう…」

「慶都が言わなかったら、俺が言ってたよ」

「え?…っ」

俺が言ってた、と言われ、驚きと共にキスをされていた。
始めは、唇を重ねるだけの優しいキス。
次第に、熱を帯びて激しくなるキスに応えようと口を開け舌を絡み合わせた。

「…っ、はぁ…」

お互いの吐息だけが、部屋に響いた。

好きになってよかった。

この人でよかった。

「慶都…」

そのまま、身体を圭輔さんに預けた。

♪♪♪♪


「…はい、あぁ、おはよう。昨日はすまんな、助かったよ。え?あぁ、今日か?…分かった。1時だな?あぁ、時間にな…え?うるさいな!」

私を腕枕しながら寝ていた圭輔さんは、出た電話に真面目に話していたかと思うと、最後は顔を赤くして電話を切り、腕枕をしていない片方の手で、恥ずかしいのか顔を隠していた。

「…っ、圭輔さん…」

「あ、ごめん。起こした?」

「ううん、目が覚めたの。電話誰から?」

「あ。あぁ、都築だよ。昨日の続き、昼から話するって…」

「そうなんだ。なんかその後言われたの?」

「え?あ、っ…、何でもないよ…」

圭輔さんの顔を見ていたら、都築課長に何かを言われたんだろう、きっと。
電話の向こうで、したり顔で笑っている都築課長が想像ついた。

「まだ寝ていようか?俺はまだこうしてたいよ」

「…はい」

私はそのまま眠りについた。



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