家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
結局、ふたりが宿に戻る前に、ケネスとエイブラムはそろって店から出てきた。
ケネスが壁際にたたずむふたりを見つけ、両手を腰に当てたまま呆れたような視線を送ってくる。
吐き出されるのは、恨み節だ。
「君たちが遅いから、出てきてしまったよ。今日、ルイス男爵には伯爵邸に泊まっていただく。ロザリーも積もる話があるだろう。一緒に来るかい?」
「私は、片付けをしてからお伺いします。レイモンドさんにもちゃんと説明しないといけないし」
「そうかい? じゃあ後で馬車をまわそうか」
そう言ったケネスを遮るようにザックが前に立つ。
「いいよ。俺が後で連れていく。護衛の馬を一頭貸してくれ」
「そうすると君の護衛がひとり減るよ」
「構わない。そもそも護衛をつけすぎなんだ。覗かれているようで気分が悪い」
そう言いながら、ザックは暗闇に目をやる。ロザリーは気づかなかったが、きっとそのあたりにもザックの護衛が潜んでいるのだろう。
さすがに伯爵邸までの距離をひとりで行くのは無理があるので、ロザリーもおとなしくお願いする。
その様子を見ていたエイブラムは、どこか寂しげに笑った。
「ロザリンド。……縁談はやはりお断りしておこう」
「はい。お願いします、おじい様」
「それと、……たまにでいい。手紙をくれないか。私も年を取った。お前からの手紙が来るくらいの楽しみがなければ、生きていくのがつまらないからな」
「いいんですか?」
「仕方ない。お前を連れて帰るのは無理そうだからな」
ザックに冷やかすような視線を向けながら、エイブラムはロザリーを抱きしめた。