家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
エピローグ~とある領主子息のモノローグ~

 イートン伯爵家の嫡男・ケネスは二十二歳。王都での学業研鑽を終えてから、たくさんあった王都での仕事の誘いを蹴り、自領にて領地経営を学びながらのんびり暮らしている。

イートン伯爵領は領民と領主の距離が近く、ケネスも街を見回るのが日課だ。そして今日も、お気に入りの切り株亭の食堂の一角に陣取っている。

「レイモンドさん、なんか焦げ臭いです」

階段の掃除の合間に手を止め、厨房に声をかけたのはロザリーだ。

「え? あ、やば、焦げそう」

「集中してくださいよう」

切り株亭の人気メニューのシチューを大きなお玉で混ぜ始める。

「ギリ香ばしいでいけるか……?」

などと言いながらブツブツ言うレイモンドに、ケネスは笑いを止められない。
一方、向かいに座る彼の従弟という名目になっているザックは、レイモンドと話すロザリーを見ながら、でれでれと目を細めている。
イートン伯爵家に避難してきたばかりのすさんだ表情をしていた彼に比べれば、ずいぶんと穏やかになったものだ。
笑顔を崩さぬまま、ケネスは内心ではホッと息をついている。
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