独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
嫌なことは重なるとはよく言ったものだ。
私の心を抉る出来事がさらに起こった。

過去の資料の整理に時間がかかり、いつもより退社時間が遅くなった帰り道。
こんな日に限って、母から明日の父の弁当のおかずのために鶏肉を買ってくるよう頼まれていた。

自宅近くのスーパーマーケットで売り切れていたらしい。母から夕方、スマートフォンにそのメッセージを受け取っていたため、会社近くにあるスーパーマーケットに向かう。

普段は通らない道を足早に歩く。スーパーマーケットに面した交差点で、鶏肉が売り切れないか、もどかしい気持ちを抱えて信号を待つ。

すると目の前のスーパーマーケットから一組の男女が出てきた。ふたりとも長身で遠目にも均整の取れた身体つきがよくわかる。肩を寄せ合うように近い距離で何やら話しながら歩いている。

ふたりは有名人なのか、すれ違う人が振り返って見ている。あからさまに立ち止まり、凝視している人もいる。嫌な予感がした。けれど交差点を通り過ぎていく数多の車のせいで、ふたりの姿は途切れ途切れになる。

同時に湧き上がる得体のしれない不安。ドッドッと動悸が速くなっていく。男性が荷物を持ち、女性を揶揄うような仕草を見せる。彼らの親密さが窺える。

その時、彼らが街灯の前に差し掛かり、横顔がはっきり見えた。
その瞬間私の心が凍り付いた。

「煌生、さん?」

無意識に零れ落ちた言葉。交差点の向こう側で私に気づくことなく歩いていく彼の姿。
間違いない、間違えない。大好きな彼だ。
そしてその傍らに立つ女性は羽野チーフだった。
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