独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
ああ、だから、皆が注目しているんだ。

雑誌や週刊誌に載るほどの彼と彼女。噂のふたりのツーショットだ。悲しいくらいにお似合いのふたり。大人で綺麗で、私が入り込める要素なんてひとつもない。

週刊誌の記事は真実だったんだ。煌生さんが私に代理婚約を依頼してまで、色々な投資やリスクを払ってまで大切に守りたかった人。たったひとり彼に想われる女性。

心が粉々に砕けて散っていく。苦しくて切なくて痛い。

交差点の信号はいつの間にか変わっていた。
ふたりの姿はどんどん遠くなる。なのに私はそこに立ち尽くすしかできない。
頬が冷たいのは秋の夜気のせいではない。流れ落ちる涙を止めることもできずに私は足を動かすことすらできなかった。

わかっていた。私が本物の婚約者なんかになれないって。私は彼に相応しくないって。私が選ばれるわけなんかないって。

なのに、心のどこかで期待していた。もしかしたら、もしかしたらって思っていた。芽生えた恋心が無残に散っていく。

だけど、こんな形で知りたくなかった。追い縋ったりしないから、直接教えてほしかった。迷惑なんてかけないから、真実を伝えてほしかった。きちんと失恋したかった。

「あなたが……好き……」

口にした途端、胸が震えた。
心の中を何かに鷲掴みにされたかのように痛い。涙と共に吐き出された言葉は受け取る相手もいない夜空に吸い込まれていった。

それからはどうやって買い物をして帰宅したのかも覚えていない。気がつけば私はスーパーマーケットの袋を提げて、自宅に帰りついていたようだ。母が話しかけていた言葉すら覚えていない。

わかっていたのは、私の恋は一方通行で終わりを迎えた、ということだけだった。
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