独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「迷惑なわけないだろ」
彼が若干、不機嫌な声で言う。

「橙花はただ、会えて嬉しいって言ってくれたらそれでいいんだよ」
そう言って、彼は私のこめかみにそっとキスを落とした。そのまま私の唇を甘く啄む。

その言葉に胸が締め付けられて、涙が出そうになってしまう。
ああ、もうこの人はどうしてこんなに優しいのだろう。

それから彼は律儀に私を自宅まで送り届けてくれた。私はその去り行く車体をいつまでも見つめていた。

それから半月余り、彼と会うことはできなかった。この間、無理やり脱け出してくれたせいもあるのだろう。

彼が送ってくれるメッセージから出張が続き、多忙な毎日を送っていることはわかっていた。詳しい仕事内容がわからない私にはただ『身体に気を付けて頑張ってください』とメッセージを返すことしかできなかった。

彼に会いたい。
そう言えばきっと、彼はこの間の夜のように無理にでも都合をつけて会いに来てくれることが予想できた。

だけどそれは彼にも彼と共に働いている人たち皆に迷惑をかけてしまう。私ひとりの小さな我儘でそんなことはできない。私はそんな存在になりたくない。

だけど会いたい気持ちは際限なく膨らんでいく。つい先日まで彼との別離に泣いていたというのに、私はどれだけ身勝手なんだろう。彼への想いを諦めることなく、傍にいられるだけでも十分幸せなのに。

私は何度もスマートフォンを眺めては、溜め息を吐く日を送っていた。何度見つめても、新しいメッセージは届いていないとわかるのに。

自分からはメッセージすら送れない。なのに彼からのメッセージを欲しがってしまう。ずるい私。自分がどうしたらいいのかわからない。多忙な彼の負担にはなりたくない。

だけど自分の気持ちを持て余してしまう。会いたいのに会いたいと言えない。自分の気持ちとの葛藤に負けてしまいそうになる。そんな自分が何よりも嫌だった。
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