独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「寂しいなら寂しいって言わなきゃ相手には伝わらないのよ? ……彼が好きなんでしょう?」

静かな姉の声が車内に響く。運転席からは軽快なジャズが流れていた。
小さく頷く私を見て、姉は私の左手を握る指に力を込めた。

「大輝くんが日に日に不機嫌になっていく兄貴が面倒だって愚痴ってたわよ。橙花ちゃんも頑張らなきゃ」
姉には以前に本物の婚約者になったことは話していた。私の気持ちをあえて彼女には伝えなかったけれど、恋愛に聡い彼女は気づいていたのだろう。そして恐らく私の葛藤にも姉は気づいているのかもしれない。

「婚約者は婚約者なの。あの副社長が何も想っていない人をそんなにも大事にすると思う? 怖がって決めつけてばかりいないで、きちんと気持ちを言葉にしてぶつからなきゃダメ。傷つかない恋なんてないのよ」
姉の言葉が私の胸に静かに沁みこんでいく。

「でも、私なんかじゃ……」
「それを決めるのは橙花ちゃんじゃないわ。選ぶのは彼よ。彼の気持ちは彼にしかわからないの。何も伝えないうちからは何も始まらない」

毅然と言い放つ姉はとても綺麗だった。その言葉に私は背中を押される。
彼に素直に私の想いを伝えようと決めた。

タクシーがマンションに着いて姉は私の手を引いてマンションのエントランスをくぐる。エレベーターに私が乗るのを見届けて姉は可愛らしく微笑んだ。

「蒼にはまだ内緒にしておいてあげるから」
その台詞に思わず笑ってしまった。
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