独占欲強めな御曹司は、ウブな婚約者を新妻に所望する
「橙花、行こう」
「えっ? 行くってどこへ?」
突然話を振られ、訳がわからずに私は問い返す。

「いいから、付いてきて」
イタズラッ子のような表情を浮かべた彼が私の右手をとる。

「私たちは後で伺うから」
社長の言葉に頷き、煌生さんは控え室を出ていく。
戸口に立つ柿元さんに、煌生さんに手を引かれながら私は感謝の気持ちを込めて、頭を下げた。

「柿元さん、本当に何から何までご協力いただきありがとうございました」
この人がいてくれたからこのパーティーを無事に乗り切ることができた。いつも副社長である彼のこと、私のことを誰より心配して取りはからってくれる頼もしい人。

「一時はどうなることかと思いましたが、本当によかったです。おめでとうございます。どうぞお幸せに」
温かな祝福にとても嬉しくなった。
小さく会釈をして煌生さんに引っ張られるまま、歩く。

「こ、煌生さん?」
声をかけても彼は何も教えてくれない。

エレベーターに乗り込み、先程の控え室のひとつ上の階で降りる。
ある一室の前で彼は立ち止まり、小さくノックをした。室内から聞こえた、どうぞ、という低い男性の声。

その声に聞き覚えがある気がしたのは気のせいだろうか。
カチャリと開かれたドアの向こう側には……私の両親と兄がいた。

「まあ、橙花! 綺麗ね」
品の良いスーツを着た母が大きな声を上げる。

「お、お母さん!?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった私とは対照的に、母は随分落ち着いている。

「お義父様、お義母様、お義兄様、ご足労いただき、ありがとうございます。突然お呼び立てしてしまって申し訳ありません」
私の右手を繋いだまま、彼が私の家族に頭を下げる。

「いや、どうか顔を上げてください。煌生さん」
スーツ姿の父が穏やかな声で言う。
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