結婚願望のない男

…なんとも歯切れの悪い打ち合わせだった。

「香川さんの広げた風呂敷を、たたみ切れずに終わってしまいましたね」

島崎くんも私も、しょんぼりと肩を落としながらワタナベ食品を後にした。

「ごめんね、先輩としてもっと上手くフォローできたらよかったんだけど、押し切られちゃったね…。再見積もり作るけど、見積もり通りの金額もらえるかなぁ…。値引き圧力かけられそう…」

「そんなふうに自分を追い込まないでくださいよ。一発で相手をうならせるような案を作れなかった僕が悪いんです。品田さんのせいじゃないです…。そろそろスケジュール的にもきつくなってきましたけど…なんとか頑張ります…」

「…そうね。でも香川さんもA案をベースにって言ってたし、A案は良いと思うよ。だから島崎くんこそ落ち込まないで。調査票の修正は任せて大丈夫?」

島崎くんはこくんと小さく頷いた。

「ところで、品田さん…。今日いた山神さんって…あの山神さんですよね?」

当然聞かれるだろうと覚悟はしていたものの、いざ聞かれるとドキっとしてしまう。

「う、うん…そう…。開発系の部署だってことは知ってたけど、まさかあのチョコ作ってる人だとは思わなかった…。全然予想してなかったから、すごくびっくりした…」

「……。まぁお互いいい大人だし、仕事は問題なくこなしますけど…。なんか、気まずいですね」

「うん…。香川さんたちには変な空気を悟られないようにしないとね…」

「はい…。はぁ、それにしても、何でよりによって…」

島崎くんは憮然とした表情だ。

「あの、でも、もう本当に彼とは何もないし…意識したってしょうがないから、私は気にしないよ。島崎くんも私から聞いた彼の話は忘れて、普通に接して。ね?」

「意識したってしょうがないから気にしない…か。品田さんの言葉、信じますからね」

「そうしてくれると嬉しい」

島崎くんはそれでもちょっと不満そうではあったけど、無理もない。私が好きになりかけた人と一緒に仕事なんて気分悪いだろうな。
(私が余計なこと考えてたら、島崎くんにも迷惑かけちゃうな…)


私たちは重い足取りで社に戻った。
(とにかく仕事に集中、集中。今日は残業して資料直すか…。よしっ)
デスクに戻った私は、気合を入れ直してPCに向かう。
ひとまず外出中に届いていたメールを確認しようとメールボックスを開いたところで、私の指が止まった。

『差出人:山神弓弦 件名:山神です 本日の打ち合わせの件』

(えっ…山神さんからメール!?)
名刺に記載してあったアドレスをわざわざ入力して送って来たようだ。何事かと思い、私は慌ててメールを開いた。
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