結婚願望のない男
「直すところが多すぎて真っ赤になった」
「す、すみません…」
「…また謝ったな。謝るなって言ってるのに」
「…あ、ええっと…」
山神さんのくれた資料は、ぱっと見ただけでもかなりの修正量だ。あまりにも情けなくて、謝罪以外の言葉が浮かばない。
「…ここでしくじったら、もう二度とうちとの取引はないぞ。実は今、うちの会社は試験的に複数のキャンペーンでそれぞれ違う会社にキャンペーン分析の発注を出して裏で格付けしてる。マーケティング全般の担当社を見直そうとしているんだ」
それは初耳だった。うちの営業はそんなこと一言も言っていない。
「別に取引があんたの会社じゃなくてもうちは一向に困らないけどさ…。この案件落としたら、あんたはまた課長の評価下がるんじゃないの。これまで散々怒られてきてるのに、これ以上やらかしたら目も当てられないだろ」
「…!」
山神さんの一言に私は課長の怒声を思い出して身がすくんだ。
「…!山神さん、あなた…」
顔色の変わった私を見て、島崎くんがすごく不快そうな表情になる。
「…僕は、あなたが品田と知り合いであることは知っています。ただ、今はあくまでビジネスパートナーとしての関係でしかないはずです。失礼な言葉遣いや踏み入った発言で彼女を傷つけるのはやめていただけませんか?仮にうちが今回の件で契約打ち切りになったとしても、課長に怒られるのは僕です。少なくとも彼女は守ります」
島崎くんはそう言い切って、「もう行きましょう」と私の手を握ってひっぱった。
「あ…ちょっと!では山神さん、今日はこれで…。本当にすいませんでした!」
「……」
山神さんは冷たい一瞥をくれたのみで、もう一言も発しなかった。