アイラブ☆吾が君 ~恋する淑女は、十二単で夢を舞う~
一方飛香はその頃。

「お帰りなさい」
兄の帰りを出迎えたところだった。

「ただいま」

何しろ兄碧斗は最近とても忙しい。職場である藤凪流本部と自宅とは同じ建物であり、エレベーターを上るだけで帰宅できるが、それでも九時前に帰れることはまれだった。
食事だけ済ませてまたすぐ本部に戻る。そんな日々がずっと続いている。

「どうした? 辞める話はしたの?」

飛香から、実は仕事を辞めたいと思っている。そう聞かされたのは昨日のことだった。平安の都に帰ることも含め、それまでの一か月ひとりで考えたいと。

「はい。アラキさんに言ってきました」

「そうか。じゃあどうする? しばらく那須に行ってるか?」

「そうですね」
すっと瞼を伏せた飛香の目元が、少し腫れているように見える。

「――飛香?」

「あ、ごめんなさい。なんだかちょっと目にゴミが入っちゃって」

実は帰ってきてからずっと、飛香は部屋にこもって泣いていたのだった。
< 322 / 330 >

この作品をシェア

pagetop