一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
沈黙が、重い。
電話の向こうにいる彼が、どんな顔をしているのか。私には想像できなかった。
『…桜庭。』
ふいに、瀬戸が私の名を呼んだ。静かに紡がれた言葉が、確かに耳に届く。
『俺がお前に告白した時。一瞬でも久我さんのこと忘れた?』
「え…?」
『頭ん中、俺でいっぱいになった?』
その問いは、何を意図しているのか。真意がわからない私は、素直に答える他なかった。
「…当たり前だよ。他のことを考える余裕なんてなかった。」
私の答えに、『ふっ。』と、小さく笑う声が聞こえた。
はっ、とする私に、彼は告げる。
『なら、いーや。…ありがとな。』
静かに笑った瀬戸は、最後にそう言って電話を切った。その声が想像以上に穏やかで、私は戸惑いを隠せない。
ーーピロン
LINEの着信音。瀬戸からである。
“久我さんと幸せになれよ”
“でも、飽きたら早めに俺に言え”
瀬戸らしい、最後の気遣い。…彼の優しさに何度救われただろう。
(…ごめん。…ありがとう、瀬戸。)
じんわり、温かい言葉が胸に宿った。
**
「…何が、すぐに仕事に戻らなきゃ、だぁ?昼休み始まったばっかりじゃない。」
「うるさい。面と向かって振られるのは、片思いを拗らせてた俺にとって致死レベルのダメージなんだよ。」
瀬戸の隣で、三嶋 唯が眉を寄せた。
「見届けてくれ、なんて連絡が来たから何事かと思ったら…。何?慰め要員?私、美香が幸せになれればそれでいいんだけど。」
「慰めてもらおうなんて期待はしてねぇ。」
はぁ、とため息をついた瀬戸は、暗くなったスマホの画面を見つめ続ける。
唯は、静かに息を吐いた。
「しょうがないなー。じゃ、失恋記念に飲み行く?」
「どこがアニバーサリーだ。記念にするな。」
「いいじゃん。同期の縁が切れるわけじゃないんだし!ここで吹っ切っとかないと!」
「三嶋を呼んだのは、失敗だった…」
ばし!と背中を叩く唯に、瀬戸は顔を歪めたのだった。