一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
私に気を使ってくれたんだ。
彼はそれ以上は何も求めようとせずに、静かにソファの背もたれへと体を預けて息を吐いた。
「数ヶ月前から話は出ていたんだけどね。経営が軌道にのるまでは現地に飛んで指揮を取れ、ってさ。」
その時、ふいに風邪をひいた彼のお見舞いに行った時の記憶が蘇った。
部屋のテーブルの上にあったのは、英語がびっしり並んだ書類の束。
『樹さん、これは?』
『……んー……』
仕事を聞いても、彼は歯切れが悪かった。
まさか、あの時から…?
「結果が出るまで、ってどれくらいなんですか…?」
「…それは断言できない。だけど、きっと短くはない。年単位になるか…ずっと帰ってこれない可能性だってある。」
どくん…!
心臓が鈍く音を立てた。
ずっと帰ってこれない?
もしそうなったとしたら、私たちはどうなるの?
と、次の瞬間。
樹さんはきゅっ、と私の手を取った。
彼の切れ長の瞳がわずかに細まる。
「俺は、美香が引き止めてくれるなら行かない。」
「…!」
「俺は、あんたに行かないでと言われたら、迷わず美香を取る。」