一途な御曹司と極あま初夜事情~クールな彼は独占欲の塊でした~
その時。桐生さんがガチャッ、と扉を開けた。席を立つ彼に続いて、私も立ち上がる。
リムジンの車内という身に余る空間から早く出たくてそそくさと歩いていると、彼はこちらを向かないまま自然に私を呼んだ。
「そうだ、“美香”。」
「っ!!」
どきりとして動きを止める。思わず硬直した私に、すっ、と振り返った彼は、わずかに目元を緩めてさらりと告げた。
「今日の夜、部屋に行くから。」
(!!)
それ以上は何も言わない彼は、コツコツ、とリムジンを出て行く。
ぱちりとまばたきをした私は、どくどくと騒ぎだす胸を押さえて眉を寄せた。
「…な、なんの宣言…?」
そんな私の呟きは、彼に届くことなく空気に溶けて消えたのだった。
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「はぁ…」
社員入り口から入り廊下を進むと、思わずため息が漏れた。
大変なことになってしまった。
それが正直な感想だった。一夜にしていきなり人生が変わって、取材陣に追いかけ回されて。
…おまけに、テレビで、あんな……
画面に映し出された久我さんとのキスに、心の底から叫びたくなった。恥ずかしいというレベルを軽く超えている。
静かに頭を抱えたその時。目の前のエレベーターが閉まり始めたのが見えた。
「あ、すみません!乗ります…!」
駆け出すとともに扉が開き、ほっ、として顔を上げる。
…と、その時。先に乗っていた“彼”と、ばちり、と視線がぶつかった。
「!瀬戸…!」
「…!」