ワケあり同士による華麗なる政略結婚
フロントで渡されたルームキーを手に、無言で最上階を目指す彼。
こんな時、何を話したらいいか分からず俯きながら彼の後に続く。
部屋に入ったら、きっともう逃げられない。
そう思っていたのは私だけでなかったようで、部屋の前で立ち止まった彼がゆっくりとこちらを振り返る。
『、、逃げるならここが最後だ。俺が怖いなら今ここで手を振り払うといい。そうすればお前に二度と触れることはしない。お前が望むならプラトニックな関係を続けても構わない。そういう夫婦の形があってもいいと俺は思う。、、選ぶのはお前だ。』
この手を取るか逃げるか。
男性恐怖症である私の為に選択肢を用意してくれた彼だったが、繋がれている手からは離す気配がまるで感じられない。
彼はズルい人だ。
一方通行で愛のない夫婦なんて虚しいだけなのに、それでも夫婦でいてくれるという。
結局は私だけがこんなにも彼が好きで、翻弄され続けるのだ。
彼を真っ直ぐに見つめながら、繋がれた手に力を入れた。
それを感じ取った彼は、迷いなくルームキーを差し込み部屋のドアを開けた。