大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

男が数メートルに近寄って来ると菜生が繋いだ手と反対の手で腕を掴んできて、その腕を強く握り、俺の背に隠れようとする。

やはり、俺の思い過ごしだったと反省しながら男と対面した。

なんだか失礼な奴だったが、憎めないと思ってしまったのは俺と同じ人種だと思ったからだ。

まだ本当の恋を知らない、かわいそうな奴。

ただ、人のものを欲しがるクセみたいなものがあるのかもしれない。

『頑張れよ』と応援までしたのに、最後の最後まで俺を挑発するイヤな奴だった。

『最近、綺麗になってきたから声をかけた』だと言ったセリフが頭から離れず、あいつのように近寄る奴が他にもいるかもと思うと、気が気じゃいられない。

「最近、一緒にいすぎて油断してたわ。お前、本当に綺麗になってきたよな」

可愛さに色気が出てきて、彼女の頬を指でなぞり肌艶の良さを確かめた。

こんな綺麗になったら、男が次々と現れて俺なんて見向きもされなくなるかもしれない。

「奏、ご飯行くんでしょ?お腹すいてぺこぺこなんだけど」

クソ…なんだか知らないが能天気な菜生にムカつく。

俺は、今そんな気分じゃ無くなったんだよ。

菜生に近寄る男を遠ざける方法はないだろうか?
< 128 / 211 >

この作品をシェア

pagetop