大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい

伝わらない思いがある。

口に出せない思いがある。

「無理だよ」

「何が無理だ⁈意味わかんねーんだよ」

「私達って…なに?」

「なにってなんだよ?」

はっきり言えないのは、答えが怖いからだ。

お互いに抱き枕だと言い合っても…

ペアの指輪をつけていても…

肝心の言葉をお互い言い合う事ができないでいるのは、私達の関係が脆い物だと気がついているから。

今、私達を繋いでいるのは、身体と薬指にあるお互いの指輪だけでしかない。

好きだとか

愛してるとか

付き合おうとか

言葉もなく、一緒にいるだけ。

奏には、女の影がちらつき、今こうして嫌がらせを受けた私を、守ろうとしてくれている。

今は言葉なんていらないと言いながら、愛情は感じていても不安が拭えず素直になれない私に、追い打ちをかけるように、奏が裕福な家庭で育ち、一般家庭で育った私との差を見せられ、尻込みしている。

だから、何か言葉がほしいのに伝わらない。

「…もう、いいよ」

「よくねーよ。はっきり言えよ」

口に出せない言葉をあなたからほしい。

「いいって言ってるでしょう!もう、しつこい」

「なんだよ…それ」

ガンと箱の壁を叩いた奏だが、腹が立つのは、こちらも同じだ。
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