大人の恋は複雑で…素直になるのは難しい
「石黒さん」
「なに?」
「失恋、慰めてくれます?」
数秒の間
「俺、男だよ。言ってる意味わかってる?」
「うん」
しばらく考える様子の石黒さんは、湯川さんに私を送って行くと話し店を出て、私の方から、石黒さんの腕に抱きついた。
大胆な私は、かなり酔ってるみたいだ。
そんなに飲んでないはずなのに…
「菜生ちゃん…いいんだよね」
「何が‥いいんだ?…」
膝に手をついて息を切らし、額に汗をかいてゼェバァしてる男が目の前に立ち止まる。
奏⁈
どうしているの?
モヤっとしていた心の中が、一気に別の感情に変わるけど、それがなんなのかはわからない。
「先輩…帰ったんじゃ?」
「途中…までな…」
まだ、呼吸が整わない奏は、どこから必死に走ってきたのだろう?
「よくここがわかりましたね?」
「お前が出ないから、湯川に聞いた」
「あっ、電池切れてました」
ポケットからスマホを出して見せる石黒さんに奏は睨んでいた。
「嘘つけ…お前ほど信用ない男と菜生を一緒にしておけるか!」
「奏が言うか!」
ベシッと前屈みの姿勢の奏の頭を平手打ちした。
「チッ…酔っ払いめ。帰るぞ」
「やだ…石黒さんと帰る」
全然嫌じゃないけど、素直になれないのはどうしてだろう?