【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「こっちよ」


その侍女は、翠蓮を快く案内してくれた。


そこに向かうと、栄貴妃は毅然とした姿で、宮正司から尋ねられる言葉を否定していて。


「……翠玉?」


翠蓮の登場に気づくと、彼女は柔らかく笑った。


「明景(メイケイ)が連れてきてくれたの?」


翠蓮を案内してくれたのは、明景というらしい。


尋ねられた明景さんは、涙目で、ゆっくりと頷く。


「泣かないで。後宮はこういうところだということは、常々、分かっていたことでしょう?」


明景さんを宥める栄貴妃は、宮正司を見て。


「わたくしはやっておりません。事実無根、全く関与知りえない話です」


そう断言した姿は、何の迷いも無かった。


すると、宮正司は今度は翠蓮の方に目を向けてきて。


「貴女は……順内閣大学士が仰っていた、翠玉殿、ですか」


重々しい口ぶりに、翠蓮は


「はい、そうです」


ハッキリと、頷く。


「貴女は、表貴人と関わりは……」


「ございません。ここに来てから、多くの方々と触れ合わせていただきましたが、表貴人がどういう方なのかは存じ上げません」


表貴人は部屋に引こもる癖のある女性だった。


貴人たちが住む所に行ったことはあるが、そこに表貴人の姿はなかったということは、共に行った蘭花さんが証明してくれる。


宮正司は額を押さえて、息をつく。

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