【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「この歳になると、あの時こうしていればよかった、こう言っておけば良かったって、後悔することはある。でも、それは不毛な悩み。いくら後悔したって、時間は戻らぬ。何もかもを忘れてしまえば楽なのだろうが……そんな薄情な真似も出来ぬ。何より、あの御方を愛したことを、親友がいた事を、笑いあった日々を―……祥星様が、夫で良かったと思った日を、わらわは忘れとうない」
添い遂げた相手が、好きな人でなくても。
いつしかそれは、愛した人となる。
時間は、愛を育む。
暖かな、種類は違ったとしても……大切なものを育ててくれる。
「あの方は、わらわにとっては過去の人。会いたくても、もう会えないのなら……わらわにはもう、偲ぶことしか出来ませぬ」
「……」
それでも、優しい瞳をしている柳皇太后。
遠い過去を、偲んでいるのだろうか。
翠蓮が憂う横顔を無言で見つめていると、
「―……わらわはきっと、祥星様を愛していたのだと思うのです」
と、彼女は呟いた。
「初恋は違いましたけど……祥星様は、大事にして下さった。祥星様が心から愛していたのは彩蝶でしたが……ああ、黎祥の母親です。優しく、快活な女人でした」
「彩蝶様……」
それが、黎祥のお母様の名前。
「黎祥は、祥星様に似すぎていますからね。彩蝶とは似ても似つかない」
「お美しい方だったのでしょうね」
「美しかったですが、それに勝るお転婆娘でしたよ。よく、祥星様と飛び出しては……わらわが怒っていたのです。本当、懐かしい……」
黎祥の両親は揃いに揃って、自由だったのか。
黎祥が焦がれても、手に入らなかったものを自由に持て余した、彼の両親。