【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「御心遣いには感謝しますが、あまり珍しいことでもありませんよ。何せ、怜世もまた、恋人を失った身ですから」


いきなり話題を振られて、怜世さんは驚きつつも、困ったように笑って。


「その方は……」


「生きてはいますよ。―もう、手の届かぬ人ですが」


「……」


生きているのに、会えない。届かない。愛せない。


まるで、翠蓮のようで。


なんて声をかけていいのか、分からない。


思わず、俯くと。


「―そんな顔をなさって、俯いてはいけません。貴女は皇帝陛下の妃となられるのですから」


と、怜世さんに顎を掬われて。


「しっかりしてください。貴女は必ず、見つけ出すんでしょう?」


嵐雪さんから話を聞いているであろう、怜世さんと桂鳳さんに微笑みかけられて、翠蓮は頷く。


(陛下の……黎祥の、妃。他人から言われると、何か、実感が湧いてくる。私……黎祥の妃になるんだ)


あの、三千の麗しき花々の咲き誇る牢獄で。


そう考えると、少し落ち込む。


例え、事件を解決するためでも……黎祥の名ばかりの妻にはなりたくなかったのに。


何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならない。


分かっていることでも、胸は痛い。


風化して欲しかった想いは今も残り、叫べない想いの代わりに、涙が零れる。


「―ちょっと」


「「ん??」」


「怜世、桂鳳、あまり、李妃(リヒ)様を虐めないでくれる?」


俯いていると、その場に玲瓏な声を響く。


< 395 / 960 >

この作品をシェア

pagetop