【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「御心遣いには感謝しますが、あまり珍しいことでもありませんよ。何せ、怜世もまた、恋人を失った身ですから」
いきなり話題を振られて、怜世さんは驚きつつも、困ったように笑って。
「その方は……」
「生きてはいますよ。―もう、手の届かぬ人ですが」
「……」
生きているのに、会えない。届かない。愛せない。
まるで、翠蓮のようで。
なんて声をかけていいのか、分からない。
思わず、俯くと。
「―そんな顔をなさって、俯いてはいけません。貴女は皇帝陛下の妃となられるのですから」
と、怜世さんに顎を掬われて。
「しっかりしてください。貴女は必ず、見つけ出すんでしょう?」
嵐雪さんから話を聞いているであろう、怜世さんと桂鳳さんに微笑みかけられて、翠蓮は頷く。
(陛下の……黎祥の、妃。他人から言われると、何か、実感が湧いてくる。私……黎祥の妃になるんだ)
あの、三千の麗しき花々の咲き誇る牢獄で。
そう考えると、少し落ち込む。
例え、事件を解決するためでも……黎祥の名ばかりの妻にはなりたくなかったのに。
何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならない。
分かっていることでも、胸は痛い。
風化して欲しかった想いは今も残り、叫べない想いの代わりに、涙が零れる。
「―ちょっと」
「「ん??」」
「怜世、桂鳳、あまり、李妃(リヒ)様を虐めないでくれる?」
俯いていると、その場に玲瓏な声を響く。