【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「謝るのは、私の方だわ……ごめんなさい」
黎祥はずっと、翠蓮の味方でいてくれたのに。
この人の優しさを、拒絶する事の方が困難だったのに。
―この人は、"昔から”優しいんだから。
「謝るな」
「えっ……わっ」
ぐいっ、と、引き上げられて、黎祥の腕の中へ。
「……黎祥?」
抱き締められたせいで、竜涎香が鼻をくすぐる。
五爪の龍を纏った貴方は、紛れもない皇帝陛下。
「私はずっと……お前の意見に沿うのが、優しさだと思っていたんだ」
「……」
黎祥の腕に手を添えて、彼の言葉を待つ。
手は冷たいくせに、彼の腕の中は暖かくて、落ち着く。
眠気を誘う、彼の腕の中の温もりはやっぱり、翠蓮の安心出来る場所。
「……でも、違ったな」
「どういう意味?」
「お前のためだなんて言いながら、私は所詮、お前に全てを投げていた」
「……」
「苦しませて、すまない。悩ませて、すまない。……これからは、私が全部背負うから」
優しく、頬を撫でられる。
綺麗な赤い瞳に囚われて、逃げられない。
「……私のそばにいて欲しい」
"いたいのか”、"いたくないのか”ではなく、"いて欲しい”という、皇帝ではない"黎祥”個人からの言葉。
「お前を忘れようとすればするほど、どんどん、お前を愛している自分に気づいて、もう、どうしようもないんだ」
「……っ」
「だから……希う」
黎祥は翠蓮から離れると、その場に傅いた。