【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
何をしているのか。
止めないといけない、彼は皇帝陛下なのだから。
そうは思うのに、声は出ない。
体は動かない。
真っ直ぐ、黎祥の赤い瞳から目を逸らせない。
息するのすら忘れてしまいそうなくらいに、
作り物のような、白皙の肌。
赤い瞳は際立ち、端正な顔は翠蓮にだけ、向けられる。
「れ、黎祥……?」
黎祥は優しく、翠蓮の手を取ると。
「―再び、貴女に永久の忠誠を」
と、懐かしい仕草で、手の甲に口付けを落とす。
そして、
「どうか、私…………俺を、捨てないでください」
懐かしい台詞。
あの時、突き放せなかったせいで、彼は死んでしまった。
それを悔やみ、彩苑は翠蓮となって―……。
「……っっ」
涙が溢れた。
手の甲に触れた温もりがじんわりと全体に広がって、
翠蓮は躊躇うことなく、黎祥に抱きついた。
黎祥はそれを受け止めると、ただ、背中を撫でてきて。
「……懐かしいだろう?」
「っっ」
「置いて逝って、すまなかった」
「……っ、」
「もう絶対、お前を置いていかない。だからお前を、私にくれ。―愛してる、翠蓮」
その一言で、
悩んでいたこと全てが、馬鹿馬鹿しくなる。
あんなにも悩んで、貴方を想って泣いたのに。
その一言だけで、
自分は貴方を願ってしまう、
貴方の想いを受け入れてしまう、
貴方を愛している自分に気づいて、
泣いてしまう。
「生涯、お前だけを愛するよ。私の隣にいるのは、いれるのは……私が必要としているのは、今も昔も、翠蓮、お前だけだ」
優しい声は、耳朶を擽る。