【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
ただ一人なんて、貴方が皇帝陛下である限り、不可能なのに。
黎祥なら実現してくれると"わかっている”のは、彼が約束を破ったことが無いからだ。
そんな彼の、三千の美姫が咲き競う後宮で、
唯一愛される存在になる。
その特権に、どれだけの危険があるだろう。
どれだけの、不安があるだろう。
想像もつかない未来に、足が震える。
でも、心は嬉しい感情で満ちていて。
「私の隣に、これから立っているのは―……李翠蓮、お前であり続けて欲しいんだ」
何かを言おうとしたが、声は出ない。
涙で視界が曇って、
「……覚悟なんて、出来てないよ」
翠蓮は震える手で黎祥の肩にしがみついた。
「私、貴方の妻としての覚悟は、何も……っ」
「―良いんだよ」
思わず、顔を上げる。
すると、黎祥の微笑が視界に広がって。
「お前が隣にいて、笑っていてくれたら、それでいい。お前を傷つけるものは全て排除するし、お前の望むものは何でも与える」
「……」
涙を拭われる。
黎祥に優しく触れられる度、胸の奥がきゅっとなる。
「とんでもない人生を歩んできて、気の休まる間もない日々はこれから先も続いていく。それは、皇帝である限り」
「……うん、」
「この先、どうなるか分からない。また、革命が起きるかもしれない」
「……」
黎祥の治世において、そんなことはないと思うが……翠蓮は何も言わず、彼に身を委ねて。