【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




向淑妃は、一言で言うと、儚い容貌の人だった。


とてもじゃないけど、事件に関わっているようになんて見えない、綺麗な人―……。


黎祥が彼女を愛せなかったことを疑問に思うほど、綺麗な向淑妃は花冷えがするこの季節に、四阿で琴を奏でていた。


その音はとても玲瓏で、青空を背景に咲く艶やかな薄紅色の海棠の花びらがそよ風に乗って、彼女の琴に聞き惚れる。


琴の音が止み、向淑妃は花びらと戯れた。


海棠とよく似た梅の花吹雪を織り出した薄紅色の襦裙を纏った、向淑妃はまるで、花の精のよう。


「―おかあさま!」


声をかけるのを戸惑う美しさに見蕩れている中、まぁ、子供らしく、純粋に母を呼んだ蘭怜ちゃん。


「……蘭怜?」


向淑妃はこちらを見ると、大きく目を見開いて。


「なっ……じゃっ、若琳!?」


「ごめんっ、私の失態!!」


翠蓮の存在を認めた瞬間、その場にひれ伏した。


「申し訳ございませんっ!!」


―何に、謝られているのだろうか。


目を丸くした蘭怜ちゃんは、翠蓮とお母さんを交互に見て。


翠蓮は彼女の前にしゃがみこむと、彼女の乱れた髪を指で整えた。


「謝られる意図が、よく分からないんですが」


そう、微笑みながら。


「お話、聞かせて貰えますか?」


すると、向淑妃の瞳からは涙が溢れた。


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