【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「腕には自信があるわ。だから、腕、診せて」
「……構うな。捨て置け」
「そんな訳にはいかないわ」
「放って置いてくれ」
頑固にも、腕を診せようとしないので。
「診せろって言ってるでしょう!?」
無理やり、引き出してやる。
痛みに顔をゆがめた彼を見て、翠蓮は嘆息した。
「言わんこっちゃない。何よ、この傷」
刀傷だ。
しかも、かなり深い。
ドクドクと血を溢れ出しているのに、彼は平然としてる。
「……構うな」
再び、彼は言った。
少し離れたところでは、彼がはじき飛ばした傘が雨に打たれている。
「……どうして?」
「……俺の死を望んでいるものが、沢山いるという証だぞ。そんなものを背負いながら、生きていくなんて冗談じゃない」
雨に打ち付けられながら、遠くを見ているような目をした彼。
「…………殺されそうになったの?」
どっかの御大尽なのだろうか。
翠蓮が尋ねると、彼は一度、翠蓮を視界に入れ、そして、すぐに目をそらす。
「……頼むから、捨て置いてくれ。やっと、やっと……自由になれるんだ……」
懇願にも似たそれは、彼の辛い境遇を表してた。
何があったのかは知らないけど。