【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「にしても、黄家……どこかで聞いたな」
どこだったか……思い出せない。
「陛下の話によると、自殺、とのことになっているようですが……」
「黄家の方よね?面識が無いから、性格などを把握しようがないわ。灯蘭様なら、知っているかしら?」
流石の蝶雪もそこまでは知らないみたいで、「どうでしょう……」と、呻く。
「……あ、ちょっと、待って」
その時、駆けつけてきた別の宦官。
流雲殿下の宦官だろうか。
とりあえず、聞かれる訳にはいかない内容なので、口を噤む。
「………………………そう」
何の報告か、受けた流雲殿下は軽く頷いて。
「ありがとう、」
その宦官は深く、頭を下げる。
「翠蓮、黎祥が呼んでいるみたいだよ。龍睡宮に戻ろうか」
「嘘がまことに?」
「みたいだね。―あ、翠蓮にはこの花をあげよう」
流雲殿下は宦官に手折らせた花―立葵を翠蓮に手渡すと、
「じゃあ、白華、お願いしてもいいかい?」
ずっと黙っていた白華を見て、それを合図に、白華が手を翳す。
―初めての経験だったけれど、一瞬にして、辿り着いた龍睡宮。
「ごめんね、ありがとう。白華」
「いや、平気だよ。翠蓮の為だし……じゃあ、僕はまた、眠りにつくね。用事があったら呼んで」
大欠伸をして、白華はまた、水に沈んでいく。
それを見届けたところで、
「―翠蓮っ!」
自分を呼ぶ声が。