【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「これは―……」


文官が、驚きに目を見開く。


「何か?」


そのことに関して、翠蓮が首を傾げると。


「……いえ、失礼致しました。最近、名を聞いたもので……そのように若い方だとは」


どうやら、予想していた雰囲気と翠蓮が違ったらしく、彼は驚いていたみたいだ。


「私は順嵐雪(ジュン ランセツ)と申します」


眼鏡の文官がそう名乗り、背後の武官は


「栄静苑(エイ セイエン)です」


と、簡潔に名乗った。


「お話をしたいのですが……」


そう言いながら、嵐雪さんはチラリ、と、結凛を見る。


それが、結凛を遠ざけて欲しいという意図であるのは、翠蓮にも分かった。


だから、


「結凛、心配してくれてありがとう。少し話をしたいから、席を外してもらえる?」


と、彼女に言う。


「……っ、わかった」


結凛は見知らぬ人の訪れに翠蓮を一人にしていくことに対しての抵抗感、躊躇した振りを見せたが、嵐雪さんの意図を結凛も把握したのか、大人しく引き下がってくれた。


三人っきりになった部屋の中で、翠蓮は彼らに席を勧めて。


御丁寧に、と、嵐雪さんは頭を下げ、席についた。


翠蓮も二人の前にお茶を差し出し、席につく。


お茶を呑む二人の仕草は洗練されていて、黎祥の身分を嫌でも物語っているようだった。

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