【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―本日はお願いしたいことがあり、参った所存です」
「はぁ……」
向き合って座ると、お茶を一口飲んだ嵐雪さんが口を開いた。
恐らく、黎祥を返すように頼むものだと思った。
なのに。
「早速ですが……翠蓮殿、後宮で働いてくれませんか」
話というのは、翠蓮の考えの斜め上をいってしまった。
黎祥の事で悩んでいる翠蓮にとって、大きすぎる問題だった。
「っ……それは、何としてでしょうか」
黎祥のことを考えていたから、余計に胸が早鐘を打つ。
「後宮の、薬師としてです」
「後宮の、薬師……」
確かに、大きな出世なんだろう。
下町ではなく、貴族の娘の集まる場所で働くことは。
でも、翠蓮には素直に喜べなかった。
後宮にいる女人は間違いなく、美女揃い。
三千の美姫が揃う、皇帝の為の花園―……それが、後宮という所であり、皇帝陛下の寵愛を受けて、子供を産む女の人達が住むための場所。
黒宵国後宮―……そこは、皇帝陛下が一度も渡ったことがないことで有名な花園である。
皇帝陛下が即位して、もうすぐ二年―……誰も寵愛を受けることなく、勿論、子を懐妊したものもない。
本来ならば、既に跡継ぎがいなければならないと言うのに。
それは、皇帝陛下が先代、先々代の後宮浸りを完全全面否定していて、後宮には通わなかったからだ。
全てを国に捧げるような政治をしており、今は"表向き”は病の為、寝込んでいることになっている。
「……貴方方は、迎えにいらしたんですよね」
「……」
沈黙が、答えだった。
「……ひとつ、教えてください」
「何でしょうか?」
震える声で、翠蓮は尋ねる。