あの時からずっと、君は俺の好きな人。
小学五年生の私が当時のホテル名なんて覚えているはずもなかったから、修学旅行のしおりを見ても私は気づかなかったのだ。


「ーーそうなんだ」

「うん」

「大丈夫?」


水野くんが心配げに私を見た。

新幹線の一件もあったし、このホテルがまた事故の恐怖に怯えてしまうきっかけになってしまうんじゃないかと、懸念しているようだった。

ーーだけど。


「大丈夫」


私は少し微笑んで言った。

このホテルが私に思い出させたのは事故の恐怖ではなく、パパとママの思い出。

それに伴う懐かしさと、パパとママへの愛情とーー失ったことによる、悲しさ。

でも泣き喚いたり、塞ぎ込んだりするような後ろ向きなものではない。ーー私はもう前を向いている。


「そっか。それならよかった」

「何度も心配かけてごめん。ーーありがとう」

「いや、俺は大したことはしてないから」
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