セカンド・プライオリティ
「…じゃあ俺は帰るから」
「え、もう!?」

そばに置いていた鞄を手に取りながらそう口にすると慌てて麻子ちゃんが立ち上がろうとするものだから、それをやんわりと制するように微笑んだ。

麻子ちゃんに連絡をしたときに妙に冷静だった俺は、彼女がおそらく何も聞いていないであろうことに関してほぼ確信を抱いていた。

「こいつの気持ちはこいつにしかわからないから。直接聞いてやって欲しい」
「え?う、うん…わかった」

俺から伝えられることなんて何もないんだ。
人を介して伝わる気持ちもある。だけど自分の言葉で伝えることに勝ることはないんじゃないかと俺は思うし、そうするべきだと思う。大切な気持ちなら、なおさら。

「颯」

黙ってこちらの様子を見ていた颯の方に視線を向けて、あえて片方の口元をあげて、思いきり微笑んでやった。

「後悔するなよ。…貸しイチな」
「…当たり前だ」

アイツはアイツの言葉で、ちゃんと気持ちを伝えるだろう。
そんな確信を抱きながら俺は病室を後にした。
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