ねえ、きみがすき
あ、そういえばあのときは確かグレープフルーツの香りがしてたんだよね。
「今日はグレープフルーツの香り、つけてないの?」
振り返ったあとに思い出す。そうだった、口元が見えないと分からないよね。
もう一度"グレープフルーツの香り"と口を動かすと、シオンの口が「あぁ」と動いた。
もちろん声は聞こえてないんだけどね。
【学校にはつけていかないようにしてる】
「そうなんだ」
─残念。心の中でそう思った。
とても個人的な理由だけど、あたしはあの香りがすごく好きなものだったから、残念だなあと思ってしまった。
「どうしてつけないようにしてるの?」
【バレたとき大変】
聞いた後に聞いていい質問だったかなと思ったけど、シオンは1テンポ置くこともなく答えてくれた。
【俺がこの香水つけてることは、業界関係者とかも知ってるから、もしも変装してる時に見つかったら、絶対マスコミとかに載ってメンバーやマネージャーに迷惑かける】
…あぁ、そっか。