ねえ、きみがすき



あ、そういえばあのときは確かグレープフルーツの香りがしてたんだよね。



「今日はグレープフルーツの香り、つけてないの?」



振り返ったあとに思い出す。そうだった、口元が見えないと分からないよね。



もう一度"グレープフルーツの香り"と口を動かすと、シオンの口が「あぁ」と動いた。



もちろん声は聞こえてないんだけどね。



【学校にはつけていかないようにしてる】



「そうなんだ」



─残念。心の中でそう思った。


とても個人的な理由だけど、あたしはあの香りがすごく好きなものだったから、残念だなあと思ってしまった。



「どうしてつけないようにしてるの?」



【バレたとき大変】



聞いた後に聞いていい質問だったかなと思ったけど、シオンは1テンポ置くこともなく答えてくれた。



【俺がこの香水つけてることは、業界関係者とかも知ってるから、もしも変装してる時に見つかったら、絶対マスコミとかに載ってメンバーやマネージャーに迷惑かける】



…あぁ、そっか。



< 32 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop