冷たい幼なじみが好きなんです


「あら、笑。目、覚めた?お腹空いてるんじゃないの?」


リビングから出てきたお母さんと鉢合わせたけれど、わたしは「目、覚めたよ」とも「お腹すいた」とも言わず、

「ちょっと出てくる!」とローファーに慣れたしぐさで足を通した。


「え?もう9時よ?どこ行くの?」


背中で驚きと戸惑いの声をあげるお母さん。


「さがし物!!すぐ戻るから!!」


わたしはそれだけ言って、背中を向けたまま、駆け出すように家を飛び出した──。


空は真っ暗だ。もう9時だから当たり前か。


明るいとか、暗いとか、関係ない。


はやく探さなきゃ。

はやく見つけなきゃ。

いったいどこで落としたんだろう。


とにかく無我夢中で家と学校を繋ぐ道のりで、あの時計を探した。


遥斗が去年の誕生日にプレゼントしてくれた、チャーム型の時計。


チェーンの部分には赤いお花がついていて、時計の背景には、ハートのビーズが埋め込まれている。


遥斗に“捨てとけば”なんて言われてしまったあの日から、ずっとカバンの外側ポケットに眠らせていた……。


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