冷たい幼なじみが好きなんです


今この場で遥斗の手を握りしめているのは、本当だったらわたしではなくて百合ちゃんであるべきだ。

遥斗もそれを望むだろう。


目が覚めたときにわたしがいたら………遥斗の気分をもっと害してしまうよね………。


遥斗から手を離し、この場から去ろうとした……そのとき。


ぱしっ……と離したはずの遥斗の温もりに包まれた。


こんなにもしんどそうな病人にどこからそんな力が湧いてくるのかというほど、しっかりとわたしの手をつかんでいる。


驚き固まるわたしを前に………遥斗の瞳が………うっすらと開いた。


わたしの視線と遥斗の視線が………まっすぐに交わる。


「………行くな……………」


息が止まりそうなほど咳をしていたその口が、ゆっくりと言葉を紡いだ。


え…………?


わたしの瞳をたしかにじっと見つめたと思ったら………。


「……………そばにいろ……」


「…………っ………」


………そして遥斗の瞳は長いまつ毛を伏せるように閉じられていった。


手は………繋がれたまま。


………なに、今の………。


腰がぬけるように、イスに座り直した。


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