イジワル同期は溺愛パパ⁉ でした

「なあ、穂香。夏休み、どこ行く?」

朝陽と同じ週に夏季休暇を取れなかったことは、すでに伝えた。それなのに『どこ行く?』と聞くのは、どうして?

わけがわからず「えっ?」と固まっていると、朝陽がクスッと笑った。

「一泊しかできないけれど、土日でどこか行こう」

朝陽の言う通り、土日ならふたりとも休みだ。

「朝陽! ありがとう!」

朝陽と一緒に夏休みを過ごすことをあきらめていた私にとって、思いがけない彼の提案はとてもうれしいものだった。その思いを伝えるために背中を丸めて朝陽の唇を塞ぐ。

勢いのままキスをしてみたのはいいけれど、自ら朝陽にくちづけを落とすことには慣れていない。

急に恥じらいを覚えて唇を離した途端、クルリと視界が回転した。

「穂香。俺を煽(あお)った責任、取ってくれるよな?」

朝陽は私を組み敷き、口角を上げて怪しく微笑む。今まで私の膝の上に頭をのせて甘えモードだった朝陽の姿はもうない。

「煽ったって……んっ……」

ただ私は、朝陽と旅行できる喜びを伝えたかっただけで、煽ったつもりなどない。それなのに朝陽は私の反論には耳を貸そうとはせずに、荒々しく唇を塞いだ。

朝陽の柔らかくて温かい唇に翻弄されているうちに、旅行のことなど頭から抜け落ちてしまう。

その日の夜はいつもの寝室ではなく、明かりを点けたままのリビングに、ふたりの乱れる息と声が響いた。

< 128 / 210 >

この作品をシェア

pagetop