今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
使った形跡のない広いバスルームは、黒い大理石のシックな空間だった。
奥には大人が二人は余裕で入れる白いバスタブが設置されている。
貼り付く衣服をおずおずと脱ぎながらも、本当に使わせてもらっていいのだろうかと最後の最後まで思いあぐねた。
裸になり、金色のノズルをひねってお湯を出す。
すぐに熱い湯が出てきて、バスルームは次第に湯気に包まれた。
しかしどうして、彼は自分を助けてくれてのだろうかと、沙帆は身体を温めながらそればかりを考えていた。
さっきの自分の動向は、今となってはほとんど思い出せない。
彼の浮気現場を目撃し、放心状態でどこをどう歩いていたのかもあやふや。
踏み外したら落ちるくらいプールの際までいっていたなんて、通常の精神状態では考えられないことだ。
それくらい、ショック状態だったのだと思う。
理由はどうであれ、濡れてまで助けてもらったことを謝り、お礼をしないといけない。
すっかり温まった身体で、沙帆は再びシャワーの栓に手をかけた。