今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
包んだ沙帆を優しく抱き締めた怜士は、沙帆の髪へと唇を寄せる。
突然のことに沙帆は激しく動揺して「あ、あの」と、怜士の胸元を両手で弱く押し返した。
素直に身体を離した怜士は、真っ赤になってしまった沙帆の顔を目にしてフッと笑う。
そして、白衣を翻し奥のデスクへと向かっていってしまった。
「婚約者をお披露目しておこうと思ってな」
「え……?」
「今日は自分の婚約者が訪ねてくるからと、受付にも知らせておいたんだ」
そう言われて、沙帆は今さっきのことを思い出す。
外来受付で声をかけた時、怜士を訪ねてきたと名乗ると、応対した女性はハッとしたような表情を一瞬覗かせた。
あの反応は、〝この人が副院長の婚約者なのか〟という意味だったのだ。
「今頃、沙帆のことが話題に上がって、放っといても病院内に広まる話だろうな」
満足気な怜士を見て、もしかしたらこの病院の中でも、そんな話題が広まってほしい事情があるのかもしれないと沙帆は勘ぐる。
(働いてる看護師さんとかに、言い寄られていたりとか……?)