今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
沙帆の兄、樹が以前にそんなことに困っていた。
従業員故、邪険にできない部分もあり、頭を悩ませていたことを思い出す。
直接本人が何かアクションを起こすより、噂や人からの情報で婚約されたと知れば、諦めもつくかもしれない。
「そうだったんですか……私はてっきり、本当にお掃除の仕事があると思って。でも、せっかくですから――」
今日はそのつもりで訪れたのだ。
口実と言われても、沙帆は構わず持ってきた荷物からクリーナーやクロスを取り出す。
今は仕事のユニフォームを着ていないから、念のため持参してきたいつもプライベートで使っている小花柄のエプロンを装着した。
「お掃除していきますね」
やっぱり掃除をしていくという沙帆の様子に、怜士は観念したのかデスクへとつく。
「そこまでやるところはないはずだぞ?」と仕方なさそうに笑った。