今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
こんな場所にエスコートされて、つい〝そういう錯覚〟に陥っていた。
だけど違う。
このエンゲージリングは、偽の婚約のために必要なもの。
怜士の『小道具の一つ』という言い方に、肩の荷が下りていくような思いだった。
「そっか……そう、ですよね」
だけどそれと同時に、虚しいような、悲しいような、複雑な想いが胸を覆っていく。
一人落ち着かない気持ちになった自分に嫌気が刺した。
「では……シンプルなものにします。この、あまり石の大きくないもので」
エンゲージリングが恐れ多い、だとか、こんな高価なもの、だとか、そういう〝本物の婚約者〟が感じる感情は自分には不必要であること。
沙帆はそれに気付かされて、淡々と商品選びに専念する。
戻ってきた女性スタッフに促されて、奥の席へと案内されていった。