今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
両親共に医師だという沙帆の境遇は、怜士の家柄とよく似たものだった。
『両親を奪った憎っくき仕事』
沙帆は医師をそう非難していた。
幼い頃から両親が医師故、寂しい思いをしてきたのだろうと怜士は察した。
それがわかるのは、自分も同じような思いをした記憶が存在していたからだ。
「ああ……なんか食後のデザート的なもの買ってくればよかった」
助手席で買ったものを抱えながら、沙帆はポツリと呟く。
予定として買い物をして帰るつもりだったからか、沙帆はしっかりマイバッグを持参していて、レジでビニール袋はいらないと伝えていた。
両親が医師という沙帆の家には、家政婦の存在があったことを怜士は挨拶に訪れた際に目撃している。
そういう環境で育っているにも拘わらず、買い物をするのにエコバッグを持っていくようなところに、怜士は密かに感心していた。
「甘いものが好きなのか」
「はい、かなり。あっ、あそこの、見えますか? 今日はお休みで閉まってますけど」
そう言った沙帆が身を乗り出すようにして、フロントガラスの先を指差す。
赤信号で停車して怜士がその指先をたどると、レンガと黒いガラス抜きされた扉がクラシカルな雰囲気の店が遠くに見えた。