今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「それとこれは全く別物だろ」
そう反論しながらも、怜士はシンクで手を洗い始める。
考えてみれば、キッチンに立ってまな板と包丁で肉を切った経験が記憶にない。
「確かに。でも、考えないでできますから、その肉は。きっと簡単ですよ」
まな板と包丁を用意し、「お願いします」と沙帆は場所を空ける。
「ひと口大くらいに切ってください。厚いところは薄くしてもらってもいいです」
怜士に肉の処理を任せた沙帆は鍋を用意して、怜士のとなりで冷蔵庫から出してきた玉ねぎの皮を剥き始める。
白い姿になった玉ねぎを、沙帆は華麗な包丁捌きで薄くスライスしていく。
トントンとリズミカルなその音に、怜士は包丁を握ったままじっと見入っていた。
「すごいな、慣れてる……」
「そんなことないです、たまに指切ったりしますし」
謙遜しながらも、その速さは落とされない。
が……。
「あっ、ダメだ、きた……」
急に包丁を置き、ぎゅっと硬く目をつぶる沙帆。
どうやら玉ねぎが目にしみたらしく、まぶたがビクビクと痙攣を起こしている。
怜士は横からその様子を目に、つい包丁を置いて沙帆の頬に手を伸ばしていた。